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東京地方裁判所 平成6年(ワ)5080号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金一二九万〇六一一円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告は原告に対し、金三五〇万円を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が申立てた不動産競売手続に対して、被告が手続停止の仮処分決定を得て手続を停止させたが、本案訴訟である抵当権設定登記抹消登記事件の訴訟(原告―本件被告、被告―本件原告)において、本件被告の敗訴が確定したので、強制執行手続が停止させられたことによる損害の賠償を求めた事件である。

二  争いない事実

1  平成三年七月二五日、水戸地方裁判所土浦支部において平成三年ケ第四〇号不動産競売開始決定がなされた。右決定は、原告を債権者とし、被告を債務者とし、次の不動産(以下「本件不動産」という。)に対するものである。

所在 茨城県つくば市大字吉沼字西戸ノ山

地番 四六一番三

地目 宅地

地積 952.06六平方メートル

また、右決定は次の請求債権の弁済にあてるため、次の担保権の実行としてなされたものである。

(請求債権)

昭和五六年三月一日付け金銭消費貸借契約による元本一〇〇〇万円及び昭和五六年一二月八日から完済まで年三割の割合による遅延損害金

(担保権)

昭和五六年三月一日設定、昭和五六年七月三〇日移転、昭和五六年九月八日移転の抵当権(主登記 水戸地方法務局筑波出張所昭和五六年七月二一日受付第四二七九号、付記登記 昭和五六年七月三一日受付第四五九四号、昭和六一年二月八日受付九五二号)

2  被告は、これに対し、右不動産競売手続停止仮処分命令を申立て、これに対し、平成四年二月一三日、金三〇〇万円を限度とする支払保証委託契約を締結させる方法による担保をたてて右不動産競売手続を停止する旨の決定(水戸地方裁判所土浦支部平成四年ヨ第三号)を得た。

3  右仮処分事件の本案訴訟である抵当設定登記抹消登記請求事件については、平成六年二月七日、平成五年オ第一六四一号事件において上告棄却の判決があり、本件原告の勝訴が確定した。

4  右仮処分決定後、強制競売手続は停止された。

三  当事者の主張

1  原告の主張

原告は、強制競売手続の配当金で田代住江からの借入金二〇〇〇万(利息、損害金年二〇%)の返済をする予定であったところ、手続が六二四日間(平成四年二月一三日から平成六年二月七日まで)遅れたため、その間七九九万二三〇〇円の損害金を余分に支払う結果となった。また、遅れた期間中に経済状況の変化で本件不動産が大幅に値下がりしたことも、原告に大きな損害を与えた。精神的、肉体的苦痛も甚大で一〇〇〇万円の精神的損害を被った。

これらの損害の一部である三五〇万円について、損害賠償を請求する。

2  被告の主張

原告は本案訴訟の第一審(水戸地方裁判所土浦支部平成四年(ワ)第三号抵当権設定登記抹消登記請求事件)において、平成四年一一月三〇日に勝訴判決をえているのであるから、本件保全命令の取消が可能であった。

本件不動産について、平成五年一月一二日に、本件不動産競売決定の抵当権とは別の原告の抵当権設定が認められる判決が確定している。

したがって、原告が、本件競売手続をすることが平成六年二月七日まで妨げられていたということにならない。

本案訴訟は不当訴訟ではない。

四  争点

1  本件被告が敗訴して確定した本案訴訟の提起について、被告に故意過失はなかったか。

2  不動産競売手続停止仮処分により、右手続が停止したことと因果関係のある原告に生じた損害は何か。

第三  判断

一  争点1について

本案訴訟により本件被告の敗訴が確定しており、特段の事情がないかぎり被告には過失があったものというほかない。

被告は本案訴訟において田代住江が証人として出頭すれば、勝訴できたものである旨主張するのであるが、同人の証言内容が被告に有利なものであるとは限らず、本件においてもその出頭を求めることは、所在不明で、不可能な状態であり、訴訟に提出されない証拠に基づいて裁判をすることはできない。したがって、被告において、過失がないと推認できるような特段の事情は認めがたい。

二  争点2について

被告によれば、原告には強制執行の停止を解除する方法あるいは、別に不動産競売を申し立てる方法があったとして、停止の全期間を損害発生期間とすることはできないというが、原告において仮処分の取消を求めれば、それが直ちに認められたとは必ずしもいえるものではなく、また、原告において、別の抵当権に基づき不動産競売を求めれば、別途費用と手間がかかるのであって、そのような申立を、原告に通常の対抗手段として要求することはできない。

前記事実からみれば、手続が停止していた期間に相当する期間、競売手続は遅れ、原告に対する配当も同期間分遅れたということができる。

したがって、特段の事情がないかぎり、原告に生じた損害は、配当によって受け取ることが期待できる金額についての右停止期間分の法定利息(年五%)ということになる。

本件においては、原告自身が最低売却価格を大幅に上回る金額で買い受けているが(甲一五、一九)、原告が、配当によって受け取ることが期待できる金額は最低売却価格であるというべきである。本件競売手続においては、原告は、申立抵当権の被担保債権に対する配当として、第一順位に手続費用に次ぐ第二順位で一六〇〇万円(内六〇〇万円については損害金の最後の二年分)を受けているが、本件競売事件における最低売却価格は一五八〇万四〇〇〇円であり(甲九)、本件の手続費用は七〇万五五〇四円(甲一六)であるので、原告が配当を期待できた金額はその差額である一五〇九万八四九六円であるということになる。なお、現実の配当よりも、六二四日前に配当があったとしても、二年分以上の損害金が発生していることは明らかである。

そうすると、原告の損害額は1509万8496円×0.05×624÷365=129万0611円ということになる。

そして、さらに後順位の債権については、金額が足りないので、配当は期待できなかったといえる。(現実に配当がなされたのは、原告がたまたま高額で買い受けたからにすぎない。)

原告は、損害額として、配当金を田代からの借入金の返済にあてる予定であったのにこれが配当が遅れたことにより返済できなくなったことその他をあげるが、いずれも、競売手続の停止と因果関係のある損害と認めることはできない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 稻葉重子)

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